Saturday, November 18, 2017

『劇場版 はいからさんが通る 前編ー紅緒,花の17歳ー』

◇STAFF
原作:大和和紀『はいからさんが通る』
監督・脚本:古橋一浩
音楽:大島ミチル

◇CAST
花村紅緒:早見沙織
伊集院忍:宮野真守
青江冬星:櫻井孝宏
鬼島森吾:中井和哉
藤枝蘭丸:梶 裕貴

製作国:日本
公開:2017年
上映時間:97分

中学生の頃から『はいからさん』が好きで観てきました。絵が原作とは全く違ってなんだか種村有菜風味だし,どんな仕上がりになっているんだと若干ドキドキしながら観ました。が,全体的には原作へのリスペクトが感じられて,そこに現代の表現も乗っかっていて,面白かったです~。

今回映画を観に行くにあたって,特に原作を読み返さずにいたんですが,観ていると(あれ。こんなところもあったんだ!?)と再発見するところがいろいろあったり,ストーリー自体も時代背景をちゃんと押さえていたり,改めて大和和紀のすごさを感じました…。これが少女漫画だとは…!ウィキペディアさんによると,今までアニメやドラマなんかになってきたけど,今回の劇場版は初めて原作全編を取り上げるのだとか。過去には元々放送予定だったけれども途中で打ち切りになってしまったことなんかもあるらしく,切ない思いをしてきた作品だったのね…。

そう。よくも悪くも原作全編を扱うから,ものすごくきゅうきゅうしているのが気になりました。「テンポがいい」を越えて,すごい,巻いてる。笑
こう…原作にあったような,紅緒さんと素敵な殿方が出会って はっ… とする瞬間とか…。一瞬時が止まってるような画とかコマとかが原作にはあったと思うんですけど,そこがとにかく詰まりまくっててぎゅむぎゅむしているのです~。ううー。仕方ないとはいえもったいない感も…!

そして一緒におでかけしたエルサ先輩が仰っていたのは,「少尉も青江冬星も愛着の人なのに,すごい健康的」ということ。ほぉぉ…。なるほど。心理の視点で見ると(←エルサ先輩は職場の元先輩)そうなるのか…。言われると確かに。どっちも母親に捨てられてるものね…。というかそんなこと言うんなら『あさきゆめみし』もそうじゃないかと思うと,大和和紀は母子関係が気になってしまう作家さんなのかな。私も好みですけどね。←
エルサ先輩は,少尉も冬星もう少し具合悪いひとのはずと評していて,そこがこの作品の魅力なのだと仰っていました。劇場版,なんてポップな仕上がり…。まぁ,その方が見やすくはなると思うんだけどね。無意識に母性を出している紅緒さんに惹かれる男たち…というよりも,純粋に時代と運命に翻弄されていく男女の方が,見やすいから。でもってこれでいきなり後編から具合悪くなられても困るので,これはこれで良いのだと思います。

ちゃんと最後にはアニメ版のオープニングも流れて,本当に原作も過去の作品も丁寧に扱われているのだなと思うと,そこも心温まる良いアニメ映画でした。古い漫画だけど現代の表現が乗っかっていて,そのコラボレーションが面白かったです。最初は人物(特に紅緒さん)と声が浮いているように感じたりもしたけれど,だんだん馴染んでくる感じがありました。あと蘭丸が良かったなぁ。
後編は監督が交替されてしまったようですが,紅緒さんがどういった人生を歩むのか,どんな仕上がりになるのか期待しています。

Friday, November 3, 2017

第34回長野県高校演劇合同発表会 長野県松本美須々ヶ丘高校演劇部『M夫人の回想』

@サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター 大ホール

原作:W. シェイクスピア
翻案:郷原玲
出演:長野県松本美須々ヶ丘高校演劇部

地区大会(感想はこちら)の終演後,周りが『M夫人』の衝撃を受けてざわついていました。一方私は「このもやっとしたものはなんだろう~」と気持ち悪さが残っており,その解消のため作品解釈に励んでいたのです。その時は女性性で解釈していたので途中でどん詰まりになってしまい,どーゆーこっちゃ~と思っていたのですが…
改めて冷静に観てみて,今回だいぶ私の中では腑に落ちました!!!自分の普段の仕事のような見方になったので若干引かれそうな気もしますが,腑に落ちました!!!

夫人って何者?って考えた時に,この人は知的に高いけれど凸凹があって,ベースに発達がある強迫神経症さんなんだと思うと,すごい納得できました。(前回は摂食障害の人のようだ…って私言ってますけど,強迫という点では通じている…のかな?)

この人,“こうあるべきだ”とか“こうせねば”がかなり強いんですよね。その傾向は幼少の頃からあって,「男の子なんだから泣いちゃだめ」とか小さいマクベスくんに言ってるし。だから大人になって結婚したら,「良い妻にならねばならない」「家庭を守らねばならない」という“~せねばならない思考・~すべき思考”がだいぶゴリゴリになっちゃう。でも頭の中はだいぶとっちらかっていて,転導性が激しくて目の前の刺激に引っ張られやすいから,やかんをかけてる…と思ったらふとお花のことが気になっちゃって,ギュン!とそっちに意識が移ったと思ったらお隣の奥様が視界に入っちゃったから今度はそっちにギュン!!!ってなっちゃって,やかんのことはどこへやら~ってなっちゃう。頭の中で優先順位をつけるのがへたっぴなので,そこを激しく求められるハウスキーピングという職業は彼女にとってだいぶハードルが高い仕事だった。だけど「良い妻にならねば(良い妻でいなければ)」という意識はあるので,理想と現実のギャップにやられてしまう。
恐らく自分のキャパとか自分の特性を夫人自身が掴めていないので,他者(マクダフ夫人)の価値観・規範である「女の幸せは自分の子どもを抱くこと」というところに自分の価値基準を置いてしまって。だけど子どもを産めなかったもんだから,またもや理想と現実に距離ができてしまって苦しむ…という話なのではないかと思いました。適切な自己理解ができていないが故にハードルが高くなってしまい,それそのものに自分がやられてしまう,切ない成人女性の話。自分に合わないものをがむしゃらにやってしまうことで必要以上に傷ついてしまうし自己肯定感も下がってしまう。逆にちゃんと自己理解ができていて,「自分ってこんなもんかー」がわかっていたら,もっと合う生き方があったはず。理想と現実の間で葛藤する女性の話と思うと,時代や国を越える普遍的なものがあるんじゃないかと思います。←最初の方で敢えて『知的に高い』と書きましたが,それは葛藤できる力があるということを強調したかったのです。
(劇団☆新感線の『メタルマクベス』では松たか子が「私達は小さいから,小さい箱を選べばよかった」って言ってるシーンがあったんですよね。まさにこれ…!葛藤して遠回りして自己理解っぽいものに至れた松たか子!)

ただ,そう切り取ると,別にマクベスじゃなくてもいいんじゃ…ってなっちゃうんですよね。夫人に対する新しい視点の提供と思うと,それはそれで面白いと思うのですが。「(結婚して)名前を失った」というせりふもありましたが,元々マクベス夫人ってマクベス夫人だしなぁ…と思ったり。もっと別の誰かでも表現できたのかな…と。(高村智恵子とか…?)
でも,作者の郷原先生はそこまで特性として意識してマクベス夫人を描いているかというと,ちょっと違いそうな気もするんです。なので作者の意図に沿った解釈ができたかどうかは別として(そもそも演劇の楽しみ方は作者の意図当てゲームではないし),私なりに解釈するとマクベス夫人ってこういう人なんです。ラストの「帰ってこないじゃないの~(いないじゃないの~)」も,一般的にはそれくらいの日数不在にしてても問題ないのでは…って日数も,この人だから耐えられなかった可能性はあるのかな,と思いました。

そうそう。なんかTwitterでこの作品の感想を目にすると,最初から夫人の妄想だった説があるんですけど…。え。そうなの?ここまで読んでいただくと伝わっているかと思いますが,私はそうではないだろうと思っております…。だとしたら,もっとあの登場人物が,自分自身がマクベス夫人だと思ってしまうくらいの何かが必要だと思うのですが…。あ。ここは郷原先生に直撃してみたいところですね。笑

あと前回の地区と比べて,スクリーンというか壁の使い方がいいな~と思いました!ラストのMの字で埋め尽くされるところとか。地区は壁の一部しか使っていなかったと記憶しているんですが,全面で使用していたり,あの出し方も今回の方が個人的に好みでした。
マクドナルドのくだりのところも,ミニチュアを使ってカメラ映像を投影するなんて!思わずマームとジプシーの公演を連想しちゃいました。現代的…。あれ,いいですね。ただ,一人芝居は不在の人達をいかに想像させられるかというものでもあるかなと思うと,具象化した人形が出てくるのはどうなのか…とも思ったりしたんですけど,あれは説明シーンだと割り切ればいいのかな。お人形かわいかったし。笑

あとあと,地区大会ではキャストさんがへばってきているのが伝わってきて,必要以上に観るエネルギーを要したのですが,今回は安心して観ることができました。ようやく作品を楽しめたかなと思います。

中信地区が関東大会に出場するのって実は2010年代に入ってから初めてだし,美須々が関東大会に出場するのって21世紀に入ってから初めてだし,県大会の結果で上位2校を中信が占めるのも2003・2004年度以来だし,なんかもう中信の人間としては今回とてもとてもとてもうれしい結果です。美須々もおめでとうございますなのですが,郷原先生にもおめでとうございますとお伝えしたいです。私の感覚では,長野県大会よりも関東大会で評価されそうな作品だと思うので,他県にとって“噂の学校・噂の作者”だったものを関東の舞台で存分に魅せつけてきてほしいです!