Sunday, July 2, 2017

長野県上田染谷丘高校演劇班 第55回染谷祭公演『空の村号』

(染谷祭パンフレットより。生徒さんのお名前が記載されている部分は加工してあります。)

@長野県上田染谷丘高校第1体育館

(作:篠原久美子)
出演:長野県上田染谷丘高校演劇班

(パンフレットに作者名が明記されていなかったので,調べて載せています。そのため( )付の表記にさせていただきました。)
7月第1週に巡る文化祭や演目を調べている時にびっくりしたのが上田染谷丘でした。
だ,だって1日目と2日目と演目が違うんだもの…!
そ,そんなことってあるの…!?と思ったんですが,14年前に長野県田川高校演劇部『くじらの墓標』『A・R~芥川龍之介素描~』と1日2作品やってたな…。と思い出しました。2作3パターン4公演揃うと部員さんほぼ全員がキャストで出られるくらいの規模だったので,染谷もそんななのかなーと思ったのです。もう片方の演目がてらにしかつえさん作『ボクのじゆうちょう』(こちらもパンフレットに作者名が明記されていませんでしたが。)だったので,Twitterで公演情報を知った時は「『ボクの…』で3年生が楽しく引退して,『空の村号』で1,2年生が大会用作品として持ってくるのかなー」なんて想像していました。
が,違いました。
なんか…出てる人はどっちもキャストでほぼ出ずっぱり!!っていうか3年生含めて9人くらいしかいない…!
それなのに2作品作っちゃう染谷。なんてパワーなんでしょう。きっとどっちもやりたかったんですね。それでちゃんと2作品仕上げてくるってすごいですね。

そう。『空の村号』しか観てないですけど,これが県大会に出ていても違和感ないレベルでした。ぐいぐい作品と空間に飲まれました。
高校演劇の場合,本選びで作品の6,7割はほぼ完成すると思ってるんですが,いい作品を選ばれたなぁ~と思いました。創作なのか既成なのかわからなかったのですが,あとで調べたら篠原久美子さんのものだったんですね。私の中で篠原先生と言えば,一昨年度の関東大会の埼玉県立芸術高校演劇部『解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話』の講評を担当されていた方!私,この先生の話がとっても魅力的で印象的だったんです。なのでこの先生の作品と聞くと,納得。舞台はパンフレットによると“震災と原発事故を経験した村”なのだけど,せりふからその村が想像できるんですよね。舞台セットはさら舞台と椅子として使える箱がいくつか。その程度なんだけど,せりふから情景が見える。青々とした緑,田畑が広がっていて,山なんかがあって,青空が広がってる。そんな情景を私は想像できました。言葉からその画がイメージできるって,なんかすごいな…とふと思いました。別に説明的なせりふがつらつらある訳でもないのに。良い脚本だったし,その綴られた文字を言葉にして,体に乗せて表現できる染谷のメンバーの皆さんにもしっかり力があったんだろうなぁと思いました。

観ていて一番魅力的だな~と思ったのが,海ちゃんと晶監督をやっていたキャストさん!素敵ー!海ちゃんと晶監督のギャップがすごい!大人が落ち着いていると観ているこちらも安心できるなぁと思いました。小さな変化で演じ分けなければならないのですが,髪の毛を縛るとかパーカーを羽織るとか,ささっとできるけど視覚的に効果的な変化だったなーと。そして観ていて,なんというか…今の木曽青峰にいそうなキャストさんだな~…とふと思いました。なんか,木曽青峰の顧問の先生がいたらすごいハントしたがるだろうなって。笑 個人的に思いました。うふふ。
あと,お母さんと翔をやってたキャストさんも素敵だった!お母さんと小5男児ってだいぶ落差があると思うんですが,どっちも「こういうひと,いる…!」って思えるような感じで。中盤で,この家族がどこに住むことが最良なのかを話し合い,お父さんと言い争うシーンがあるんですが,そこは母親というより一人の人間として悩んでいるところが見えて,とても良かった…。翔もほんとに男の子に見えてしまったから,このキャストさんすごい…。

主人公空くんは,現実の世の中もなんだかハッピーじゃないし,本当のことは面白くないという感覚からファンタジーの世界(SFで冒険でフィクション)にのめり込んでいくのですが,小学生チームでその作品を創造していくところがなんとも言えない苦みのあるシーンで,ずっしりきました。長野清泉女学院『宇宙の子供たち』にも通じるものがあるな,と。抱えきれない現実にぶち当たった時,子どもを救ってくれるのは遊びの世界,ファンタジー(想像)の世界なんだなぁと。トラウマを抱えている子ども達なんかは,遊びの中でそのトラウマを再現して…例えば3.11であれば地震ごっこや津波ごっこなんかを通して,受け入れ難いものを遊びの中でコントロールして,徐々に自分の中で抱えていく…なんて言われていますが,まだこの子達にはそれはキツイし,受け入れ難しなんだなぁと。海ちゃんが現実要素をボコンと入れ込んでしまったところなんかは,バルーンの中で遊んでいるところに針でプスッと穴を空けてしまって,一気に破裂してしまったように感じました。切なかった…。現実が混ざり込んでしまって,空の村号は宇宙にはたどり着けなかったけれど,それはどう現実と折り合いをつけていくのかというところに繋がっているのかななんて思います。小学生チームの中には,ここに残るひと,どこか遠くへ行くひと,いろいろな選択肢を選び取っていくひとがいましたが,きっとどれも正解で間違いではないんだろうなーとも思いました。

あ。でも。冒頭で空くんが作文を読むんですが,なんか全然小5の作文に聞こえなかったのが違和感でした。なんでしょう。そんな言い回しするかしら5年生!って構文で。でも大人が書いたものだから仕方ないか。これもまたフィクションだし…。笑
その作文を読んでいた空くんと,ラストの叫ぶ空くんもギャップがあってヒリヒリしてしまいました…。2015年度の大会作品『カラクリヌード』一本だけで言うのも良くないですが,染谷ってがなるというかシャウト系のお芝居をするカンパニーというイメージだったので,ラストの方で染谷節が出てきたな…という感じ。(だけど個人的にシャウト系は苦手なので,ちょっと圧倒されすぎちゃった感もありました。)

あとあと,頭の方にも書きましたがパンフレットに作者名が書かれていないのですよね…。それがものすごーく気になりました。作者名を載せない意図としては上演許可を取っていないことが真っ先に考えられるのですが,Twitterで作品タイトルを出していたのでそれはないかなと思うんですよね。とすると単に落としたことになるかと思うのですが,情報として誰の何を上演しているのかは大会であろうが校内公演であろうが,規模に関わらずきちんと明記した方が良いだろうなと思います。せっかく素敵な作品なので。

いろいろだだだーっと書いちゃいましたが,実際染谷に足を運べてホームで公演を観ることができてよかったです!私が入場した時は音響が出なかったのか裏方さんがパタパタしている感じを受けたのですが,無事に音が出て良かったです。笑
そして上田染谷丘は文化祭の後にこの作品で追加公演をしたようで,そこもびっくり。十数年いろんな高校の文化祭公演にお邪魔していますが,そんなこと聞くの初めて…!観たいと思わせられるのもカンパニーの力の一つだと思うので,染谷の実力をしっかり味わえた公演だったなーと思いました。

染谷丘の皆さん,お疲れさまでした。特に3年生の皆さんの力を感じられた舞台でした。足を運んで良かったです!

No comments :

Post a Comment