Saturday, April 9, 2016

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』

◇STAFF
監督・原作・脚本:岩井俊二
音楽:桑原まこ

◇CAST
黒木華/綾野剛/Cocco/原日出子/地曵豪/和田聰宏/毬谷友子/佐生有語/夏目ナナ/金田明夫/りりィ/野間口徹

製作国:日本
公開:2016年
上映時間:180分

(2016.4.9 劇場で鑑賞)

映画『四月物語』とか,テレビドラマ『謎の転校生』とか,正直岩井俊二監督作品はこれくらいしか観たことないのだけど,私はこのひとの作品が好きです。淡くて,ふわふわした世界観。春風みたいな,暖かいようなちょこっと鋭い冷たさがあるような,懐かしいにおいがするような。そんな世界観。

作品が180分と知ったときには(タイタニック…?(´⁻`)?)って思っちゃいました。私が初めて『タイタニック』を観たのはVHSでだったのですが,2本あったのがとっても印象的でした。テレビで放送するときも前編後編で分けて放送することが多いし,あれとほぼ同じボリュームか~と思うと若干重たい気も…。笑

でも,観終わったら結構あっという間な感じ。『タイタニック』は登場人物もエピソードも盛りだくさんだけど,この『リップヴァンウィンクルの花嫁』はじっくり話が進むので,情緒のゆらぎを感じたい私にとってはとても満足な映画でした。
なんだろう。ドラマも映画も,そして舞台も,キャストがその役を演じていて,そこにいるのは本来キャストではないはずなのに,この映画は普段観ているお芝居以上に,本当に,演じてる感じがしなくって。スクリーンにいるのは黒木華で,綾野剛で,Coccoなんだけど,なんかもうそのひと達はスクリーンにいなくて。同じ顔をした人達のドキュメントを観ているような。そんな気持ちになりました。

やっぱり黒木華が,とても良かった…。『花子とアン』とか『天皇の料理番』とか,ちょっと昔の役のお芝居を見ることが多かったので,このSNS全盛期の現代でどんな風に生きるんだろうと思ったら。核がないような,根を張れることなくここまで来てしまった感のある女性の雰囲気が本当に自然に出ていて,終始うっとりうっとりしていました。そう。七海の感情を本当に丁寧に描いていて,私もものすごーく揺さぶられました。七海が鶴岡家から追い出されて,安室さんに「ここどこでしょう」と電話するところとか。居場所がなくなったというか,もともとが浮遊してる存在だったことが自分でもわかってしまって,孤独というよりはただただ不安というところがぶわーっと伝わってきました。人生の迷子ってきっとああいうことを言うのだろうな…。
でも,真白さんと出会って,自分と全くタイプの違うひとと出会って,真白さんの感情に触れることで七海の感情や意思に七海自身が気づいて,根ができていく過程が追えたような気がします。映画の出だしの細々とした声から,ラストの引っ越しが終わって「ありがとうございました!」を安室さんに言った時の声の張りの違いにこのひとの成長が詰まってる気がして,心地よかったです。

綾野剛のあの掴みどころがない感じも,なんなんだろう…。笑
安室さんは,「役者もやってるけど今回は安室で」と名乗っていたけど,もしかしたら真白さんと以前共演とかしていたのだろうか。何でも屋といっても真白さんにはどこか私的感情が入ってる気がして,その頂点が真白さんの実家でのあれな気がして,そう思うとまた見方もちょっと変わるかなーなんて思ったり。
そうそう。映画に出てくるLINEぽいやつの「アムロいきまーす!」のスタンプがたまらんかったです。笑 何あれ。自作したんですか安室さん。笑

「まるでドキュメントみたい」とさっき言いましたが,特にそう錯覚させられたのは冴子さん役の夏目ナナの演技。キレイな女優さんだなーと思っていたのですが,後で調べたら元AV女優さんなのですね。AV女優さんから女優さんに転身したひとってあんまり知らないので,そんなルートもあるのか~と思いました。今回の役柄も含めていろいろ納得です。私の今後も気になるひとリストに追加しておきます…。

そうそう。原日出子怖かった。笑
私と原日出子の出会い(?)はNHKの朝ドラ『天うらら』だったのでそのイメージが強かったのですが,今回はやたらリアルで恐怖でした!表情とか視線とか。こんな姑イヤだな。化粧が濃い原日出子は怖いんだなと思いました。笑 ほんと,リアルで,こんなひとに責められたら私もしゃっくり出ちゃうな…。

カメラワークと画面に収まってるひとたちの心の距離というのかな。そういうのがリンクしてるように見えて,そこも私がぐっときたポイントのひとつなのだと思います。画面に出てきているひとたちの心的距離が遠いとカメラも遠いし,心的距離が近いとカメラも近いし(七海と真白のウェディングドレス姿のシーンとか),画面から関係性が溢れてくる感じでした。
ほぼ絶えず流れる音楽も,春とか幸福を思わせるような曲ばかりで,だから全体的に画面が明るいように見えたのかな。とにかくふんわりふんわりしている,そして力動がしっかり丁寧に描かれている,とても私好みの作品でした。

あと,「七海」とか「真白」とかって名前も素敵だよね。「真白」はまんまなのだけど,ナナミって響きはいろんな字で当てられるのに,七海。広い世界に行けるはずなのにどこにも行けなかったひとから,小さなアパートに引っ越して出発地点に立てた。港にたどり着いた。そんな感じがする,素敵な名前だなぁー。

でも一ヵ所よくわからなかったのは,七海が五反田のホテルに閉じ込められて安室さんにヘルプ出して迎えに来てもらうところ。高嶋さんと安室さんがすれ違うところで,(あれ?この二人ってどういう関係?)と思って。もう一回観ればわかるのかな?うーん。

やっぱり岩井俊二作品が好きだ。と思った一作でした。私も生きていこう。本当は幸せだらけのはずの世界で生きていこう。
実家にいろいろ録りためてるので,お盆に帰省したら他の作品もじっくり観たいと思います。

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