Monday, October 26, 2015

第38回創作テレビドラマ大賞受賞作 テレビドラマ『佐知とマユ』

◇STAFF
脚本:足立紳
音楽:福廣秀一朗
演出:榎戸崇泰

◇CAST
門脇麦/広瀬アリス/本田大輔/与座よしあき/塩野瑛久/富田靖子

2015年3月17日・10月25日にNHKで放送,10月再放送時に鑑賞

土曜の深夜,もう寝ようと思いつつチャンネルを回していたら,やっていたのが『佐知とマユ』。以前門脇麦のことをWikipediaで調べていたときにちらーっと作品名だけ目に入っていたので,(あれ?)と思ったらやっぱり門脇麦が出ていた!…ので,目が冴えまくって観ちゃいました。
50分ドラマなのに観始めたのが放送開始して15分くらい経ってからだったので,多分最初のいいところを結構落としてしまったんですが,なんとかついていけました。(多分マユが一度佐知の部屋から出て行って,戻ってアパートの前で待ってるところから観ました。)

門脇麦,広瀬アリスが主演のドラマですが,この2人が本当に良かったーーーーー。

特に2人で餃子食べるところは,非常に引き込まれました。

佐知「それから今日まで会ってない。」
マユ「何それぇ置き去りじゃあん。猫捨てるようなもんじゃん,人間じゃないよねそれ。」
佐知「だからぁ…,あんたも生んだら人間じゃないよ。捨てちゃうんだから。」
マユ「……。」
佐知「……。」

なんかせりふ書いても全然臨場感が伝わらず悔しいですが,マユは佐知の母親のことを指摘しているのに,それはマユ自身のことだと佐知から跳ね返されて「あっ」となるマユの動揺がちゃんと丁寧に見えたので,好きなシーンです。

あとこのシーンの手前には,佐知が母親から捨てられた時の回想シーンが入るのですが,観覧車の軋む,ちょっと怖い音が大きくて,母親がいなくなって不安と恐怖の佐知の心をうまく煽ってるなーなんて思って。細かーいところが効果的なドラマだなぁ。

そしてもうひとつインパクトあるシーンが,母親と再会した佐知の反応よ…。

母親「面影,あるもん。」
佐知「…何だお前。」
母親「何?」
佐知「おも…,お前なんか人間じゃない!」

この,(え?面影?)っていうところから,「お前なんか人間じゃない!」が,舞台でも他のドラマでも聞いたことない声で,度肝を抜かされました。
こんなにアグレッションあるひとなのに,いざマユの子どもが生まれそうとなるとぼーっとしちゃって自発的に動けないあたりはこのひとの弱さなんだろうな…。(私どちらかというとこっちだわ…。)

「帰れ!」って叫んだ後に「おい。おい!」って母親を呼び止めるあたりとかも,不器用で,感情ぐちゃぐちゃなところが見えて胸を打たれました…。はわわ~。

あと広瀬アリスのお芝居って全然観たことなかったんですけど,こんな体当たりな演技ができるなんて!どびっくりでした。出産シーンにこのひとの見せ場が全て詰まっている…。
こういう役柄っていうのもあると思うんですが,痛みを感じないように生きているお芝居ができる女優さんですね…。この強さは,妹にはまだ出せないなーと思いました。もっとこのひとの体当たりなお芝居,観てみたいかも。

マユは17歳で母親になることになりますが,多分このひとは頑張れるのでは…。私が大学院のとき,同期で虐待の世代間連鎖について研究されてた方がいて,それによると自分に被虐待経験があっても子どもには虐待していないという母親の思っていることとしては,マユが話していたように「自分がされなかったことをしてあげたい」とか,そういうところが大きかった…ような…。(うろ覚え)
いくつで生むかは若すぎたり高齢だと気になる問題ですが,それよりも母親になる覚悟を持って生めるかどうかなんだろうなと思います。最初は「生んだら捨てる」とかあっさり言っちゃうひとですけど,「変わりたい」と思えたマユは良いギャルママになるのだと思います…。

乱暴な言葉も出てきますが,せりふが全体的にきれいだったり音が効果的だったり,コンパクトな作品でも芸術的というか,質の高さを感じました。あと多分“サチ”は音的に“幸”でもあるので,佐知ちゃんにも幸せになってほしいものです…。観られて良かった一本です!

Saturday, October 17, 2015

テレビドラマ『天皇の料理番』(全12話)

◇STAFF
原作:杉森久英
脚本:森下佳子
音楽:羽毛田丈史・やまだ豊

◇CAST
佐藤健/黒木華/桐谷健太/柄本佑/高岡早紀/佐藤蛾次郎/芦名星/森岡龍/石橋杏奈/ 坪倉由幸/浅野和之/木場勝己/天野義久/林泰文/森田哲矢/東口宜隆/鈴木亮平/武田鉄矢/ 和久井映見/麻生祐未/加藤雅也/日野陽仁/大島さと子/美保純/杉本哲太/小林薫

2015年4月~7月にTBS系列で放送,4~10月に鑑賞

近年TBSのドラマばかりはまっている気がします。
なんでも今年TBSは60周年だそうで,この『天皇の料理番』は超気合いが入っている作品みたいなので,観ることにしました。でも全然日曜夜9時には観てなくて,スイッチが入ったときに再生していたので今日までかかってしまいました…。

はー。なんか,一人のひとの生涯を追う作品って,終わったあとは何とも言えない気持ちになりますね。一緒に生きたような感覚。2010年代では珍しく12話もあるし,1話1話も尺が長いし,とってもボリューミーな作品でした。

やっぱりドラマもお芝居も脚本が命だと思うのだけど,そこもぐいぐい見たくなるつくりだったし,キャストさんがとっても魅力的だった…。

私,佐藤健のお芝居ってまともに観たことなかったんです。『るろ剣』とかも。あとなんか,なんだろ。すごい個人的な話で,一瞬付き合ったひとに雰囲気似てて。笑
お別れしたら佐藤健が直視できなくなって。笑
…まぁそんな投映をしちゃうひとだったのですが,今回がんばって観たら見慣れてきました。笑
でももしかしたら,長髪(とか普通の長さ)の佐藤健になったらわからんかも。いや長さじゃない。こんなに不器用なひとの役でなかったら,まただめになってしまうかもしれない…。
いやそんな個人的な話は超どうでもよくて,とにかく初めてまともに観たのだけど,こんなに吹っ切れたお芝居もできるのか佐藤健!というのが今回の大発見でした。あんなにイケメンなのに。できるじゃんこのひと!という感じ…。笑
(とにかく“笑”を乱用している…。)

あとやっぱり黒木華が素敵だよね。昨年の朝ドラ『花子とアン』でじっくりお芝居を観たのですが,雰囲気がほわ~っとしていて吉高由里子とは違う華がある女優さんだなーと思っておりました。映画『小さいおうち』も早く観たいです。
あのお顔と福井弁(というのだろうか。)がすごく合ってて。和装も合ってて。もう「その時代にいましたよね!」ってオーラが画面から溢れてました。笑

俊子自体もしっとりした性格のひとだと思うのだけど,episode5で俊子の感情が爆発したところは,本当に見入ってしまいました。

俊子「うちはもう,篤蔵さんの子なんて生みたくないって言ってるんです。」
篤蔵「あぁ…。ほんなにつらかったんか。」
俊子「つらいって…。」←ここ!!ここの目がとても素敵!!!!!
篤蔵「わしには…わからんさけ。」
俊子「ほんな…ほんなん,つらいに決まってるやないですか。…どんなんやったか教えてあげましょうか。ひと月半。うちがどんなんやったか教えてあげましょうか。どんな思いやったか教えてあげましょうか。辛かったですよ。うちはもう,ずっとつらかったです。…篤蔵さんに出て行かれた時も,戻る気はないって言われた時も,辛かったです。…ああ,この人は,うちのことなんかどうでもいいんやって。それでもうちはこの人を好きなんやからって。それでいいんやって。こんなうちを貰ってくれたんやから,それていいんやって。ずっと,ずっと辛抱ばっかり。けど,うちは,本当は,…本当はもっと,大事にされたかったです。普通に,穏やかに暮らしたかったです。」
篤蔵「そやさけこれから大事に…」
俊子「ほんならもう,東京なんか行かんといて。料理人やめて,松前屋継いでください。」
篤蔵「ほれは…」
俊子「できんでしょう。結局,篤蔵さんはうちを大事になんかできん人なんです。口先ばっかり。ずるくって,身勝手で,考えなしで,仕事は食堂の小僧で。いくらうちでも,もう少しましな人がおると思います。お願いですから,もううちの前から消えてください。二度と,うちに関わらんといて。」

何度もリピートして書き起こしたので違うところもあるかもですが,そしてせりふを文字にすると間合いとか空気感とか全然伝わらなくてつらいのですが,「つらいって…。」とか「できんでしょう。」とか,そのあたりにこのひとの心の動きがすっごい出ていて,引き込まれました…。はぁ…。うっとり。


引き込まれたといえば,episode10に出てきた篤蔵の長男,一太郎を演じた藤本飛龍くんもよかった!あの,小学4,5年生っぽい(←実年齢はわからないけど)絶妙な表情がたまらなく素敵でした…。親に甘えたいけど世間のこともそれなりにわかってきて,反発してしまうようなところを,丁寧に表現してたなぁと…。でも震災後に皇居内で篤蔵と再会したときのあの反応が,一太郎の本当の姿なんだろうなと思いました。
そうそう。10歳過ぎたあたりの子の,親の職業ってやっぱり気になるもんなんだなぁと再認…。それこそ“料理人”への評価は当時と現代では違うけど,「社会的に見て」とか気にできる年だし,気にしちゃう年だし。親が隠せば隠すほど子どもとしては不信感抱いちゃうよなぁとか思ったり。体調不良になった俊子から離れるために夜家を出ていく篤蔵に放つ一言とか,たまらんかったです。
将来楽しみな子役さんだと思うけど,あの顔のあの声のあの表情はepisode10でしか味わえないと思うと,あのタイミングであの役を演じていた彼を観ることができて良かったなぁと思います。


職場ではしばしばドラマの話題がお昼の時間に出るのですが,このドラマに関しては「主人公に全く共感できない…!」というのが先輩達と一致している意見でした。笑
飽きっぽいしすぐキレるし女のひと(ていうか嫁)の扱いひどいし,彼のどこに応援したいと思わせる要素があるのか…ということに随分悩まされました…。観てるとめっちゃADHDっぽいわーと思ってしまいます。後半になってようやく落ち着いてきたので安心しました…。
そしてようやく(?)最終話でぐっとくる篤蔵のせりふが!

「食べ物というのは,結局は魂が食らうんです。だからこそ,今アメリカに食わすもんは,最大限の真心を込めて作らねばならんのですよ。」
「わしは,わしは片田舎の厄介もんでした。ここまでやってこれたんは,支えてくれた人がたくさんおったからです。父や,兄や,母や,嫁や,師匠や,友人。わしはみんなに夢を叶えさせてもらったようなもんです。わしは夢を叶えさせてもらったもんには夢を叶え続ける責任があると思います。御上の料理番として,力の限り励み続ける責任があると思うんです。皆さんは違いますか。(中略)ほんひとらぁに恥ずかしくないように,勤めたいと思いませんか。やれることはやったと,精一杯の真心尽くしたと言いたくありませんか。」

はー。なるほどー…。
「ここまでやってこられたのは支えてくれた人のおかげ。夢を叶え続ける責任がある」というのは,なんだか今の自分にじーんときました。
私も,今の仕事に就くまでは学部→修士で専攻を変える必要があったし,そのための予備校も行かせてもらったし。修士を出て仕事を続けていられるのも,親や周囲の理解や支えがあったからこそで。だから私は取る資格は取らなきゃいけないし,資格がないと働けない仕事にも就きたい。夢を叶えていきたいし,叶えなきゃいけない。篤蔵に言われたなーと思いました。


そうそう。最終話は私も泣けてしまいました。池のシーンで。
その,佐藤健はイケメン枠の俳優だと思っているので,あれをやるんかとか,あんなに言われて観ている私も悔しくなっているのにそこをそう切り抜けるんかとか。桐谷健太と柄本佑もやっぱり本当に仲間だったなーってことも感じられて。良いシーンだった…。はぁ。

他にもぐっとくるところはいっぱいあって,
宇佐美さんはいいところでいつもやってくる。裏を返せばやっぱり篤蔵はひとを惹きつける力のあるひとなんだろうな。
あと俊子の看護編は静かな夫婦愛に満ちていて,先が見えるけどずっと続いてほしい時間だなとか思ったり。
あとあと俊子が亡くなっても,というか亡くなったからこそ,篤蔵の中で俊子の存在が大きくなったような気がしたり。

人と人とのつながりや,仕事への情熱,何のために生きるかとか,そういう大きいこと。そんなものをたーっぷり感じさせてくれるドラマでした。去年の『MOZU』もそうでしたが,TBSの本気が見えるドラマでした!ゆっくりペースでも,観てよかった。

Tuesday, October 13, 2015

映画『言の葉の庭』


◇STAFF
原作・脚本・監督:新海誠
作画担当・キャラクターデザイン:土屋堅一
美術監督:滝口比呂志
音楽:KASHIWA Daisuke
歌:秦基博

◇VOICE CAST
入野自由/花澤香菜/平野文/前田剛/寺崎裕香/井上優/潘めぐみ/小松未可子/星野貴紀

製作国:日本
公開:2013年
上映時間:46分

(2015.10.13 DVDで鑑賞)

数日前に,中高の部活の後輩や知り合いの方がTwitterで『言の葉の庭』『言の葉の庭』とつぶやいていて気になってました。どうやらGyao!か何かで配信されてる(た?)らしく,私も観たーいと思ってDVDを借りてきちゃいました。(以前ネットを使って映画見たら,すごいデータ量だったので…。)

新海誠と言えば,『秒速5センチメートル』のひと!!!
もうこれは観るたび言葉にし難い気持ちになる作品で,くるしかったり,せつなかったり,それでも誰かを好きになるっていいなって思わせてくれるような映画。個人的な思い出もあり,とっても心に残っている作品です。

その新海さんの,最新作!
46分というコンパクトな時間に,またいろーんな気持ちにさせてくれる要素がいっぱい詰まってました。
DVDなので特典としてインタビュー映像がついてたんですが,新海さんと私,同郷なのですよ…。だから(それすごいわかるーっ)って思ったところがあって。新海さんが言ってた,「新宿とか渋谷の高い建物とかたくさんの人を見ると,それだけですごいなーってなる」みたいな言葉。うん。わかる。そして新宿は私にとって“東京”を象徴する地で,そこが舞台の作品というだけでワクワクしました。
『秒速』のときにはなかったコクーンタワーとかスカイツリーとかちゃんとあって,あぁ年月が流れたわ…と思いました。笑
あと新宿御苑も1回ですけど行ったことあったので,なんだか親近感。

タカオの靴職人を目指すっていう設定は…なんだかあれですね。『耳すま』の天沢聖司くんのようですね。でも世界はやっぱり2010年代の東京都心で,彼をめぐる世界はなんだか混沌としてるなぁなんて思いました。お母さんが恋人のところに家出しちゃったり。妙に大人びてるところというか,早々に大人になることを強いられてしまったところというか,そんなところが印象的な子でした。タカオくん。

でもやっぱり子どもの頃の記憶って鮮烈というか,些細な一コマでも当人にとってはとても大切な思い出なんだろうなーということも,タカオのお母さんが家族3人からダイアナの靴をプレゼントされるシーンの,タカオの表情なんかから,感じました。

ていうか!そう!ユキノの年よ!
やばい…。私とどんぴしゃりじゃないの…。だからユキノの,「27歳の私は,15歳の頃の私より,少しも賢くない。 私ばっかり,ずっと同じ場所にいる。」というせりふは,少しずっしりきました。確かに…。私,どこがどう大人になったんだろう。さっぱりわからないや。少し手に入れた知識や年齢を盾にして,大人のふりをしているだけみたい。そんなこともユキノの言葉から考えちゃいました。

学校の先生って…大変だな…。ということも,このアニメからほんのり感じました。
私も今週1くらいで学校に勤務してますが,ホントに学校の先生達ってたいへんだなって思います…。私だったら無理…。週1回行っただけで,魂吸われるもん。笑 それを毎日とか,絶対無理。
特にユキノさんみたいに比較的若くて,しかも高校の先生だと,授業からクレーム対応までいろいろ大変だろうなぁ。でもって多分ですけど,学校の先生って超自我強そうなので,「休んでいいよ」ってなってもきっとちゃんとは休めないだろうなとか。それでお昼ご飯作って近くの庭園まで出かけちゃうんだろうなとか。勤務はできないのに家にもいられない。つらかっただろうなーって。

だから自分の全てを知られていると思っている学校の生徒と出会ってしまったら心穏やかでないと思うのだけど,タカオはそうでなかったから,ユキノのことを何にも知らなかったからこそ成立した関係だったんだろうな。

(うーむ。ここまで書いてて自分がユキノ目線で観てたのかということを認識したよ…。)

タカオに足型取ってもらうところとか,こちらまでドキドキしてしまいました。笑
思えば足って普段触られないパーツだから。あんなふうに大切に触ってもらえたら,それはちょっと特別な時間だよね。まだ観てないし原作も読んだことないけど,映画『娚の一生』の,トヨエツが榮倉奈々の足にキスするあの画を連想しましたよね…。

きっとユキノも無垢な高校生に救われていたけど,いざ「好きです」なんて言われても,嬉しいけど自分にはどうしようもできなくて,ああいう態度になってしまうのも,なんだかわかるかもしれない。だって今私が15歳の男の子に告白されても,え。どうすればいいの私ってなるもの,絶対。『今日は会社休みます』以上の動揺ですよ…。

もやもやしたまま観ていたけど,階段の踊り場でタカオが「そうやって生きていくんだ」って叫ぶあたりは,なんだか空が突き抜けたようで,なんだか泣けてしまいました。秦基博さんの声も胸にしみますな…。

確かに,キャッチコピーみたいに「愛ではなくて孤悲(こい)」だったのかもしれないけれど,新緑の緑が希望を持たせてくれたように感じました。
そうそう。インタビューでも新海さんが言っていたけど,顔に緑が塗られているのが斬新だったなぁ。あと鉛筆の音とか雨の音がとてもきれいで,もちろん映像も本当に見入ってしまって,「映像の文学」という言葉が本当に合う。そんな映画。あ。あと雨とピアノってやっぱり合うんだなぁとも思ったり。

歩くための,歩いていくためのきっかけをくれるような,そんな映画でした。

テレビドラマ『三つの月』

◇STAFF
作:北川悦吏子
演出:堀場正仁

◇CAST
原田知世/谷原章介/八千草薫/菅原大吉/山本學/岩田さゆり

(2015.10.3 TBS系列にて放送,2015.10.12に鑑賞)

3年間観てきたCBC制作の月シリーズ。一昨年は常盤貴子主演の『月に祈るピエロ』,昨年は和久井映見主演の『月に行く舟』,そして今年。

はー。3作品観られて,よかった。

この時期のこの時間帯にやるのがまたいいよね。(今年はリアルタイムで観られなかったけど…。)

大人のしっとりドラマ。なんかこれがしみる年になってしまった…。笑


やっぱりこのシリーズは「岐阜」っていうところが大きいよね。静かで,自分の心と対峙してしまう。

繭のせりふにも“このまちは静かすぎる。闇が濃すぎる。手を伸ばしても,何にも届かない気がする。”というようなせりふがあるのだけど,なんだかわかるような気がします。

あの岐阜の自然は確かに素敵。川の静かな流れも,広い空も,遠くに続く山々も,透き通って見える月も,心が穏やかになる感じ。
なんだか長野県の中南西(と表現すれば良いのだろうか。)と似た雰囲気があるなぁって,木曽あたりに行くと思います。

私は長野県の中でも比較的刺激のあるところで育ったのだけど,でも今実家があるところは月が恐ろしいくらい明るいところで,帰るたんびに,夜の無音と無光を感じては世の中から切り取られてしまったような気持ちになるときがあります。

だから能動的にあの場に行くかそうでないかで,日々の気持ちもきっと違うんだろうな。名古屋の音大からああいったところにずっと住むなんてなったら。私だったら病む気がする。笑
観光で行くくらいが私にはちょうどよさそう…。


出だしの,繭と秋風さんの微妙な間が素敵だな。
あの,お互い探り合っているような感じの,間。
そこから次第に,間が詰まっていくというか,自然な間になっていくところから,二人の距離感の変化も見えるような気がします。

気持ちを,言葉を伝えるために,繭と秋風さんは電話を何度かするけど,最後は手紙。
そこがまたいいなって思います。そういえば『月に祈るピエロ』も,手紙の往復でしたね。
LINEとかメールも現代のスピードに応えるツールだけど,じっくり味わえるこの手段,好きです。あー手紙出したくなる。笑

過去の作品との共通点といえば,相手に残すものが目で見えないものっていうところも,『月に行く舟』と似てますね。前回はコロンだったけど,今回は音楽かぁ。プレイヤーごと渡すって,本当に聴いてほしかったんだろうな。

私,音楽はスポンジだと思っていて。
そのとき聴いた曲は,そのときの気持ちも,季節の温度も,考えていたことも,全部一緒に吸ってくれる。
そしてまた聴き返すときに,そのスポンジがぎゅーっと絞られて,吸ったものがまた出てくる。それが音楽だと思ってて。
だから繭は,あの曲をまた聴くことはあるのかなとか,考えちゃいます。

高揚して,高揚して,全て投げ出す気持ちになったところで踏んじゃうのが夫の爪っていうところが,ちゃんと回収しててすごいなぁ。生活感溢れまくってて。痛くて。現実を思い出す。ストーリーを追っていくと,(このひと東京には行かないんだろうな)とは思いながら観ているのだけど,どこではたと立ち返るんだろうとも思っちゃって。そうか。爪かぁ。


あとあと,姑のせりふもいいなって思ったところが。
“わからない。人生って選んできた道しかわからないんだもの。もうひとつの道の結果はずーっとわからない。だから,これでいい。”

うーん。長く生きてきた女優さんから出てくるからこその重みが…。

私もきっと,人生の岐路は今までたくさん迎えてきたけど,そうだよね。想像はできるけど,実際どうたったかは,わからない。だから今選んできたものを肯定することしか,肯定しようと努力することしか,できない。


三作観てきたけど,一番好きなのは『月に祈るピエロ』かなぁ。
好きな女優さん,常盤貴子が出ていたっていうのももちろんあるけど,最後はやっぱり幸せになってほしいなぁと思うと,これかなぁ。『月に行く舟』も『三つの月』も,今の私にはちょぴっとつらいかも。まだ,人生に期待しておきたいというか。笑

でもどれも,岐阜の自然と谷原さんが素敵なドラマでした。昨年も書いた気がしますが,できればDVDになってほしいなと思います…。そして秋の夜長にしっとり観返すの…。

いつか夏の岐阜に行きたいです。月が見られたらいいなぁ。
そんなことを思わせてくれる作品と,作品群でした。