Sunday, June 12, 2016

NHK BSプレミアム『ドキュメント 蜷川幸雄 最後の挑戦』

2016年6月4日放送,6月12日に観賞

蜷川さんの追悼番組。1時間なのに,蜷川さんの魅力たっぷりの番組でした。今までの功績というより,最後にどんな仕事をしていたかに焦点を当てていたのだけど,この人は本当に,最後の最後まで彗星のように燃えていたなぁということが伝わってきました。
弱々しい体で,やせ衰えた体で,車椅子に酸素チューブつけた体で,この人はどこにこんな情熱を持っているんだろうと思いました。

蜷川さんの言葉は胸を打つ。
番組の中でバシッと私の心を射た言葉を,ここに書いて,残しておきたいと思います

『いい演出家になりたいんだよもっと。なんだかわからないけど,心を打つね。誰もまだ見たことのない,こんな舞台を作った蜷川さん。というふうになりたい。』
→昨年12月頃のインタビュー映像…だったと思います。
ここまで来て「いい演出家になりたい」って言ってるこのひと。ほんとすごい。「なんだかわからないけど心を打つ」というのも素敵で,本当の感動ってあんまり言語化できないものなのかも…と思ったり。

『自分のうぬぼれている想像力なんて たかがしれていると思った。もうちょっと いい仕事ができるといい。』
→ストイックすぎて。本当にストイックすぎて。このひとにこんなこと言われたら,私は何もできなくなってしまうよ…。

『石橋蓮司や緑魔子さんたちもこれで苦労していた。「やつの機嫌は?」「至極上々」これ一発で朝から晩まで稽古していた。終わったら泣いたね。蓮司は泣いた。よし,それで良かったって。自分がうまくいかないからいい役がつかないんだとか,叱られるんだって考えて,すぐ逃げない。一番そういうときに勉強できるのに,悔しいから,みんなを納得させよう,納得してもっといい役を取れるようになろう。自分のためでもあるから,過酷な条件は自分で担わないとね。俺なんか世界中敵ばかりしかいないで,アジアの演出家がやるシェイクスピアをロンドンで成立させたいという,このくらいの悔しさががんばらせるんだから,悔しさをみんなに与えてるってとこもあるんだよな。そこから逃げちゃいけない。悔しいものを背負って,じゃあ蜷川あるいはみんなに「あぁ,いい俳優になったね」と言わせたい。これくらいの,つまんないような,思いが走らせる。そんなもんだぜ,人間,美しくなんかないんだって思いながら,俺はこんなロンドンで評価されたがってんだ,なんて思いながらさ,「ちゃっちい俺」と自己嫌悪と戦いながらがんばっていく。そういうものが走らせるという局面もあるんだよな。その悔しいことや辛いことを背負う。じゃないとうまくならない。』
→さいたま芸術劇場の専属カンパニー(って言っていいのかな。)ネクストシアターの稽古に付いた蜷川さんが,エチュードに対して指導してるところ。これを生で聞けたら,ものすごい厚みを感じられたんだろうな。
悔しいことや辛いことを背負ってこそ成長の余地があるというのはお芝居の稽古に限ったことではないなぁ~としみじみ思いました。
一番勉強できるときに逃げちゃいけないというのは,高校生くらいの自分に強く伝えてあげたい…。

『重苦しいのね,すごく。ここから他人の腕みたいな。これがある日,目が覚めたらすっきり何でもなく軽くなりたい。するとまた違うかも。軽やかにいい演出家になるかもなぁ。大きな声を出すと負担が多いから,ハアハアするのね。でハアハアすると呼吸が乱れるから,冷静に見てるものと違っちゃうんだよ,温度が。この間に…実感するものと,その上を覆っているものの間に距離があんだよ。それが埋まんないのね。それがピタっと来ないんだよ。それで朝目が覚めたらピタっと来てて,おお軽くなっちゃったって言う日が来ないかなぁーって思ってんだけど…。そうするとまた演出が変わるよ。と思いたい。』
→一番最初に引用したコメントと同じ時に撮ったインタビュー。体の状態と心の状態は切り離して考えられないなーと改めて思わせてくれる語り。"ピタっ"との感覚はきっと今の私にはわからないけど,いつか感じるときが来るのかもしれない。そしてやっぱり彼が考えてることは演出のことなんだなぁって。


このドキュメントの中には,蜷川さんご自身のことが作品になった『蜷の綿』についても触れられています。
(私,観に行く予定だったんだよなぁ。高校演劇の関東大会に行ったついでに発券する予定だった。公演延期になっちゃった連絡が入ったときは,本当に悲しかった。そして蜷川さんは星になってしまった。)

『蜷の綿』を書いた藤田貴大さんは,蜷川さんのことを後悔とか後ろめたさとかネガティブな感情を糧に生きてきたみたいな分析をしていて,彼の一貫性というか根底に流れるものが私にも伝わってきたような気がしました。アングラから商業演劇に転換したのも,とても人間らしいこと。でもそれまで芝居づくりを共にしてきた仲間をある意味裏切ったことについては落し前(この単語久々に聞いた)をつけなきゃけないから,そのエネルギーが彼を走らせていたんだろうなって。ネクストシアターのところでも,蜷川さんご自身が似たようなこと仰ってるけど。
あー。いつか観たいな。この作品。マームとジプシー版でも,蜷川さんのお弟子さん?の井上さん版でも。


蜷川さんの本気と蜷川さんの言葉にたっぷり浸かった1時間でした。
このひとはとても真っ直ぐで,このひとはとても優しくて,このひとはただただ「いいもの」について考えていたんだなということがよくわかる番組でした。

たった一本しか観られなかったけれど,私の人生の中で彼の演出作品を生で味わえたことは,大きな財産だと思います。

改めて,蜷川さん,今までお疲れさまでした。
あっちの世界でシェイクスピアに会って,「どうだ!」って言っててほしいです。笑

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