Saturday, September 19, 2015

第30回中信地区高等学校演劇合同発表会~ゆめ舞台2015~ 長野県松本蟻ヶ崎高校演劇部『君に想う夏』

(中信地区高校演劇合同発表会パンフレットより)

@まつもと市民芸術館主ホール

作:髙山拓海・長野県松本蟻ヶ崎高校演劇部
出演:長野県松本蟻ヶ崎高校演劇部

今年の地区大会で,特に気になる3校のうちの一つだった蟻高(気になる3校をまとめた記事はこっち)。文化祭公演『南洋記』を観た時,もしこれを大会でやったら相手がどう出てきても間違いなく県に行くだろうなーと思ったものです。
そして3年生の皆さんが引退した時点で,部員全体の半分がいなくなってしまったことになるので,これは部の雰囲気とかバランスが大きく変わるだろうなと思っていたんです。
新体制になった蟻高がどんなお芝居を打ってくるのか,楽しみにしていたんです。

が。

なんか…

変わると思っていたらむしろ極まっていて…。

初日午後イチのこの枠で,会場がこの学校に持っていかれたのがよくわかりました。
幕が降りた瞬間の,この客席の温度を,見せられるものなら蟻高のひとたちに見せたいと思いました。(音響さんが見ているだろうから伝えていただきたい。笑)

同時に,(やっぱ“それ”食べて育ってきたよね。)って思いました。

2日目の最後の講評で,講師の先生が「伝統的」と仰っていましたが,私からすると伝統というよりは「それ食べてその栄養を吸収したらそう育つよね」という感じです。
例えば昨年美須々は郷原先生nizeしたなと思ったし,ドリーミンなお芝居をやる印象のあった志学館は今年たかの先生色を出し始めたように見えたし。
顧問の先生の異動ひとつで,部の雰囲気も作風も大きく変わってしまう高校演劇。なのでそれは果たして伝統なのか?と言われると,ちょっと違うような気がします。でもぴったりくるうまい言葉が見つからない…。伝統というゆるぎないDNAっぽいものより,消化していつか消える栄養のようなもの。なのかもしれません。

今年の蟻高の“それ”は,現在木曽青峰にいらっしゃる日下部先生(と,その作品)。
作者の生徒さんは,本当にこの先生のことをリスペクトされていらっしゃるんだろうなーということが,よーく伝わってきました。先生の作品を観て,脚本も読んで,実際に演じて,いろいろ要素を吸収されてきたんだろうなと。作者のご本人がどこまで意識しているかは別として,観ている側からはそう感じました。一人何役かやるところとか,お芝居の本編+個人の回想で構成されているところとか,舞台装置の組み方とか。そんなところからです。それがいい悪いではなく。

そして“それ”を吸収して栄養に換えた今回の蟻ヶ崎は作品自体も骨太で,それに耐えうる役者さんの力が揃っていて,とにかく見応えありました。ちゃんと一つ一つの演出に意図が見えて,その演出を役者さんがしっかりモノにしていて。先日観た『NINAGAWA・マクベス』のパンフレットの言葉を借りると,「ノックアウト」でした。

力はあるだろうに,なぜかイマイチ客席まで届いてこない。そんな印象が去年の『Nippon, cha cha cha!』にありました。何でなんだろうなーと思っていたんですが,いろいろ考えた結果,感情が見えにくいからかなということでまとまりました(自分の中で)。その一瞬一瞬の感情は見えるんですが,作品全体としてつなげた時になんだかぶつ切りな気がして,ストーリーは追えたけど!はて!という印象がしなくもなかったのです。
なので,その力あるひとたちが今回感情をぶつけてきたので,かなり迫ってくるものがありました。あぁすごかった。

マイムのお芝居も,一つ一つの所作も,体がとてもきれい。きれいは正義。見入っちゃいました。
ストップモーションも美しくて,こういうのって演劇ならではだよなぁとしみじみ思ったり。体をきちっとトレーニングしていることが,一見簡単に見えるお芝居からしっかり伝わってきました。ベースの力って大事。
そうそう。ベースで思い出しました。この時点で地区大会4校目ですが,登場人物全員のせりふを安心して聞けたのってこの学校が初めてだったかもしれません。「聞き取る」必要がなくて,ちゃんと聞こえてくる。そして声もクリア。

あと,選曲もすごい好みでした。ラフマニノフとか,一瞬浅田真央がよぎりましたけど。笑
特に中盤ちょっと過ぎたあたりの,齊藤・吉野のシーン→暗転→貴子のモノローグのところで掛かっていた曲にかなりぐっときました。ちゃんと狙って掛けてて,暗転でいいところが来る!しかも音も上がる!とか,やられたーってなります。笑 本当にやられたので,思わず蟻高の生徒さんに使用している曲を伺ってしまいました。教えてくださってありがとうございました…(;o;)

そうそう。昨年特に蟻高のお芝居を拝見したので,どなたが何年生さんかだいたいわかってしまうのですが,今年の夏までスタッフさんだった方が大会ではキャストさんで,「わぁ♥」ってなりました。笑
しかもうまい…!なんてオールマイティな部員さんなの!すごいわ蟻高…。
そして文化祭公演できゅーんときた,今回で言う千里役の方が,また演技の幅が広くてびっくりでした…。千里さんとして出てきたときは(衣装が開襟じゃない…)と思っていたんですが,二役だったからなのですね…。納得…。
(主役の方は本来ヒロインなのに男性役もできてしまうから,ホント幅が…広い…。)

文化祭の『南洋記』も戦争モノだったので,よくこのどシリアスに長い間向き合っていられるなーと思ってしまいました。私だったら具合悪くなりそう。笑
そう。本当にどシリアスだけど,ひまわりがあるから救われてる感ありますよね…。いつでもそこにあって。吉野の心情がポストとひまわりにうまく表れていたなぁと思います。

これを7人で仕上げたって,本当すごいですね。それしか言えないです。薄っぺらくてごめんなさい。
あ。でも,そうだ。思い出した。吉野が空中を彷徨って,影に押されるシーンで「もう一人は嫌だ!」みたいなせりふがあったと思うのですが,あれは『南洋記』の「俺は虎にはならない!」のせりふを聞いたときと似た気持ちになりました。
そうなんだけど…そうだと思うんだけど…なんだか言葉が安直というか,聞いて拍子抜けしちゃうというか。(えっ!?)みたいな感じで。そこでそれ言いますか!?という感じがしなくもなかったです。なんだろう。一人が嫌だったの?って感じで。うーん。ここは唯一もやもやしているところです。

いろいろずるずる書きましたが,今まで蟻高(特に2年生)の皆さんが吸って,取り入れて,自分の力に換えてきたものをこの舞台で具現化できたんだろうなーという作品でした。拝見できて満足です。もともと期待していましたが,予想以上でした。きちんと評価されてほしい作品です。
蟻高の皆さん,お疲れさまでしたー。

+++

(2015.9.23追記)

そうそう大事なこと書き忘れました。吉野が千里に告白した後のガッツポーズが超かわいいんですけど。観てて ふふっ てなっちゃいました。笑 微笑ましいシーンですね…(*´艸`*)


(2015.10.26追記)

あ。すみません。ずっと書き忘れてたこと思い出しました。唯一,唯一惜しいなーと思ったのが,平台のケコミ。確か,置いてあるだけで特に何もされていなかったかと思うんですが,私持ち手が堂々と見えてるのは好きじゃないんです。いかにも舞台装置,みたいな感じがしちゃって。
芸術館は床も平台も黒だったのでまだ目立たなかったと思うんですが(だから特に手を加えてなかったのかも),他会場になると白い床,白い平台になると思うので,ケコミが付くと締まって見えていいだろうなぁと思いました。


(2015.11.23追記)
またまたずっと付け足そうかどうしようか思ってたこと,付け足します。笑
このお芝居観てたら,この年のお盆に観た映画『出口のない海』を思い出しました。この映画は大学生が海軍に入隊して兵隊として生きる心の揺れを描いている作品なのだけど,人間魚雷「回天」が出てくるのです。母艦から切り離されたら敵か海面かどこかに突っ込むしか道はない兵器,回天。それの陸版もあったのですね…と,今回このお芝居観て思いました。…っていう,本当にそれだけの話。オチも何もなくてすみません…。

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