Saturday, July 11, 2015

長野県田川高校演劇部 第33回蒼穹祭公演『もっと泣いてよフラッパー』

(蒼穹祭公演パンフレットより)

@長野県田川高校小体育館

作:串田和美
潤色:長野県田川高校演劇部
出演:長野県田川高校演劇部

この…この作品をやると知ったときは正直「え?」ってなりました。

私は昨年松本で串田さんの『フラッパー』を観ていたので,どんな作品かはすぐピンときました。
同時に,串田さん“作”の作品って,串田さんありきであって,串田さんが演出するから成立するものだと思うんです。
それに高校生が手をつける。
きっと彼らも実際にあの舞台を観て,いいなーって思ったからこそ挑戦したいのだろうなと思いました。憧れという気持ちは,お芝居をつくるひとにとって大切な感情なのだと思います。それに実際挑んで,形にして,発表したという意味では,田川がこの作品を上演した意義はあるのだろうと思います。

そうそう。やるって知ったときは,「えっ,音楽どーするの!?」と思っていたのですが,開演してびっくり。吹部とコラボしてる…!
文化部において,演劇部と吹奏楽部って犬猿の仲じゃないのですか!?(って『ボクのじゆうちょう』で学んだよ!笑)文化祭で公演時間に気遣い合わなきゃいけないこの両部が,どうして一つの舞台に立てるの!?
…と思ったのですが,どうやら今年度,田川の吹奏楽部はMAX10人程度らしく,蒼穹祭の中に吹部としての発表枠がなかったようで…。(うそーん!文化部の代表といえば吹部でしょうに!)と思うのですが,そういう年とかめぐり合わせってあるよね。きっと。

どういう経緯があったかはわからないのですが,とにかく劇部と吹部がコラボしたそうで。すごいなー…。


いろいろ思うところがあるのですが,私の頭の中を,ない作文力を使って
①チーム編成
②演出
③作品選び
④その他
…の4点にまとめてみたいと思います。


①チーム編成について

蒼穹祭の時点で部員の方が28名もいたそうです。すごーい。大所帯。今どき珍しい!
28人いるときに,どういうチーム編成を組むかってとっても重要だと思うんですよね。

例えば今回の田川のように,全員出演することを目的にすることもできると思うのだけど,「部活」という上下関係を考えた時に,公演を通して先輩が後輩にスキルを伝えることもできると思うのですね。2,3年で演出・助演出を組んでもいいし,1,3年がダブルキャストなんかで組んでもいい。特に長野県の場合7月の文化祭で引退する3年生が多いということを考えると,3年生が出る文化祭公演は単純に考えて,水準が一番ピークのはずで。そこに下級生が触れることができたら,いいもの盗めるだろうなーとか思う訳です。

そう思うと,今回の田川はその機会を自分達で手放してしまった感があって,もったいなかったです。「全員キャストとして出る」という目的を立てたのならもうどうしようもないのだけど,こんなに枠の緩い作品を1年生がモノにできるのかと聞かれるとちょっと謎だし,キャストとスタッフワークのバランスとして見るとかなり極端だなというのが率直な感想です。


②演出の不在について

そしてそして,こんなに出演者がいるのだから一貫した舵取りさんがいなきゃだと思うのですが,パンフレットを見ると…演出さんがいない…!!!
うそーん!どうやって作ったんですかー!!!!!(-ロ-;)

(この作品をやりたかったのだろうな…)という気持ちは,よーく伝わるんです。
でも,やってみたかった止まりで,こうしたい!という方向は見えなかったなと思います。
演出さんが個人名で記載されないということは,きっとみなさんが意見を出し合って作られたのだろうとは思うのですが…例えばきっかけとか,間とか,見せたい絵とか,そういうものがほとんど見えず,申し訳ないのですがふんわりふんわりした作品に見えました。「全員出る」を大切にしたい気持ちもわかるのですが,誰か一人,客観的かつ定位置でこの作品を見るひとがいないと,作品が迷子になってしまうなと思います。誰か一人,センターで見るひとがいれば,衣装のちぐはぐ感も音楽の取ってつけた感も楽器に対してせりふの負けっぷりも,わかるはずです。

大切なのは,28人全員がキャストとして出るのではなく,28人が責任を持って舞台を作ることではないでしょうか。演出,照明,音響,舞台装置など…それぞれがそれぞれの部署でプランを練り,試し,検証していくことで,「やってみたかった」から抜け出せるはずです。「自分達がつくる」意識に切り替わるはずです。


③作品選びと質の確保について

①とも絡んでくると思うのですが,「やりたいこと」と「やれること」ってズレがあると思うんですよね。
私達個人もそうで,例えば将来芝居でご飯を食べていきたいと思ったとしても,演技力やある程度の容姿,トレーニングすればどうにかなる体,資金など…いろいろ必要になってくるわけです。それと現実を照らし合わせることで,(あ,これは無理だ)(ここならいける)みたいにすり合わせをしていくと思います。
それは部活みたいな集団にも当てはまることで,例えば3人しか部員がいないのに10人キャストのお芝居は作れないし,ろくに動けもしないのにアクロバット満載の舞台を作るのも無理がある。

田川は今回,「やりたいこと」だけで突き進んでしまったかな。というのが正直なところ…。
やっぱり音楽劇である以上声が聞こえないなんて致命的すぎるのですが,普通のせりふでも怪しい方がちらほらいました。せりふを聞いた途端,(あ。これ去年の○○役のひとだ)とわかるひともいて,なぜならばせりふの出し方が全く一緒だったからで。うううー。残念すぎる。

そして新入生が入って3ヵ月ちょっとで発表できる水準に持ってこなければならないと考えると,120分弱のお芝居はどうなのでしょうか。負荷が高すぎやしないでしょうか。120分だらだらとやるよりは,45分でも良いのできちっとまとまったお芝居を作る・観る方が,お互い有意義かなとも思います。文化祭は60分の枠に縛られず自由に組める公演だとは思うのですが,まずは!まずは質の確保に努めてほしいなと思います。


④その他

『フラッパー』も観てるし,挑戦作な分いろいろ反応してしまいましたが,今年おでかけした9校中,一公演の集客人数は田川が一番でした…。観た感じ…。100人弱はいましたよね。
部員も多い分集まるのはある意味当然なのかもしれませんが,それでも実際足を運んでくれるってかなりすごいことだと思うのです。そこは本当に驚きです。普段の行いが集客にも繋がっているのだろうなと思います…。笑

あと,田川といえば小体にワイヤーを張ることで有名(?)ですが,今回そのワイヤーに布吊ってたんでびびりました…。ちゃんと中割になっている…!すっごい!あれどーやってんの!
しかも上下にあるパイプで組んだセットも,スラムちっくというか路地裏感というか,そういうものが出ててよかったです。底が抜けないかちょっとドキドキしてしまいましたが,見応えある装置でした…。

そしてキャストさんに関して言うと,昨年の『審査員』から個人的に注目している3年生さんにうっとりしちゃいました。笑
今回はアスピリン役で出ていて,超かっちょよかったです。いいなぁいいなぁ。今年の深志の文化祭公演でスーツについて書いてますが,ここでもアスピリン的にはジャストサイズなスーツで雰囲気出てました。せりふの出がすごーく自然で,身のこなしも素敵でした。もう舞台上でお目に掛かれないと思うと切ないです…。

そうそう。この作品観てたら,なんだか北野武監督の映画『Dolls』を連想しました。夢とか希望を見出したと思った矢先に命を落とす人々の話なのだけど,アスピリンとかビリーとかまさしくそんな感じで。人生の儚さをふんわりと感じました。


はい。こんな感じでしょうか。なんだか厳しいことばかり言ってすみません。でも高校演劇ではおそらく取り組まないであろうプロのお芝居に取り組むとはこういうことかなとも思います。
新しく作品作りに取り組まれることがあるのなら,まずは演出を立てて,各々持ち場をきちっと持った上で役割を果たすこと。キャストであればベースの力をしっかりつけること。これが重要になってくるのかな。「やってみました」止まりにならないためには。

せっかく!せっかく!他校からしたら喉から手が出るほどほしい男子部員もたくさんいるし,全体の数も多いのだから,それを生かすマネジメントをしていけるといいだろうなと思います。
じっくり一つの作品に向き合えたら,スペシャルなチームができそうだなという気もしています。
地区大会作品に期待です。
そして3年生のみなさんは,今まで本当にお疲れ様でした!

2 comments :

  1. 初めてコメントします。TDCの副部長をやってたものです。
    文化祭公演見に来てくださり、ありがとうございました。
    カサハラさんのダメ出し、とても勉強になりました。
    自分で「そうだよなぁ」と思うとこもあれば、「そういう見方もあるのか」とも思いました。
    私たち三年生は文化祭で引退します。(しない人もいるかな?)
    まだまだ未熟の田川高校演劇部ですが、これからも応援よろしくお願いします。

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    1. >宮島さん
      こんばんは宮島さん(*^^*)高校生の方からコメントをいただくのは初めてで,若干緊張しております(笑)。

      こちらこそ,読んでくださりありがとうございました。ダメ出しみたいになっちゃってすみません(*_*)観客の中の感想のひとつという程度に受け取ってやってください~。
      いろいろ書いてはいますが,あの作品を上演するエネルギーが今の田川の皆さんにあることに,私はとてもパワーをもらいました。生で拝見できてとても良かったです。

      宮島さんは副部長さんだったんですね!あんな大所帯をまとめていらしたとは…。本当にお疲れ様でした。
      はい(^^)これからも出来る範囲で田川の皆さんを応援できたらと思います。地区大会にはお邪魔する予定なので,また拝見できることを楽しみにしています!

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